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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)2665号 判決 1968年5月18日

原告 ヤマトタクシー株式会社(旧商号 昭和交通株式会社)

右代表取締役 坂東政雄

右代理人支配人 坂東貞雄

被告 さくらタクシー株式会社

右代表取締役 泉キクヱ

右代理人弁護士 福岡福一

主文

一、被告は原告に対し、二四九、五六〇円およびこれに対する昭和四二年一月一〇日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決一項は、かりに執行することができる。

第一  原告の申立て

被告は原告に対し、三二八、五六〇円およびこれに対する昭和四二年一月一〇日(損害発生後)から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二  争いのない事実

交通事故発生

とき  昭和四一年九月二三日深夜

ところ 布施市御厨四九二番地先交差点

事故車 (1)原告所有の営業用乗用車(大五か一九六五号、以下原告車という)

(2)被告所有の営業用乗用車(大阪五あ三九九二号、以下被告車という)

運転者 (1)原告従業員訴外坂本幸一(業務中)

(2)被告従業員訴外橋本安由(業務中)

態様  北から南進中の原告車と西から東進中の被告車が交差点内で衝突した。

第三  争点

(原告の主張)

一、被告の責任原因(自賠法三条、民法七一五条)

訴外橋本は交差点の東西信号が赤の表示であり当然停止しなければならないのに、これを怠り赤信号を無視して交差点に進入した過失により、被告車を原告車に衝突大破させ、その衝撃により前記坂本に約一〇日間の治療を要する胸部打撲傷を負わせた。

二、原告の損害 計        三二八、五六〇円

(1)原告車破損修理費および部品代 一三二、四二〇円

(2)右修理期間中の休車損     一三三、五六〇円

修理に二〇日間を要したのであるが、原告会社における昭和四一年九月の一日一車当たりの平均営業収入は九、八九八円であり、燃料消費(LPガス)五四リットル(単価一五円)八一〇円、運転手賃金三、三六〇円を差し引いた残額五、七二八円が純益であるから、右休車による逸失利益は一一四、五六〇円となる。

また原告会社では修理休車のためやむなく下車勤務させた運転手に対し一日九五〇円の手当を支払うことになっており、その二〇日分一九、〇〇〇円を被告にかわって支払った。

(3)訴外坂本の治療費  二、五八〇円

原告が被告にかわって新大阪病院に支払った。

(4)原告車価値低下損 六〇、〇〇〇円

原告車は昭和三八年一二月一二日新規登録し営業用車両として使用していたものであるが、本件事故により車両の状態が悪く営業用として使用できなくなったので、やむをえず昭和四一年一〇月一八日に廃車し新車と入れかえたもので、そのときの下取り価額の査定が事故のため低下した。

(被告の主張)

一、被告の無責

被告車は青の信号に従い東進し、交差点中央よりやや東寄りの地点において、停止信号を無視し北から南進してきた原告車により左側面に衝突され、その衝撃により東南部の御厨橋の石柱に接触し車両を大破したものであって、本件事故はまったく原告側の過失に基因するもので被告側には操縦上の過失はない。

二、予備的相殺の抗弁

かりに被告側に責任があるとしても、原告車の運転者が安全運転の基本(道交法七〇条)に従い相当の注意を払えば当然事故を回避しえたのにこれを怠ったため、被告は左記損害を受けたので、昭和四三年二月二九日の本件口頭弁論期日において、右損害賠償請求権をもって、原告の本訴請求権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(1) 被告車修理費   一二八、二一〇円

(2)右休車による逸失利益 一〇、〇〇〇円

一日二、〇〇〇円×五

(3)右乗客二名の医療費     七〇〇円

以上計          一三八、九一〇円

第四  証拠 ≪省略≫

第五  争点に対する判断

一、被告の責任原因(自賠法三条、民法七一五条)

≪証拠省略≫によると、被告車の運転者橋本は交通整理の行なわれている本件交差点を西から東に向け通過するに際し、対面信号が赤を示しているのに脇見をしながら進行してこの信号に気づかず、時速約六〇キロメートルで交差点に進入した過失により、青信号に従って北から南に向け時速約四〇キロメートルで右交差点に進入してきた原告車に自車左側を衝突させ、原告車の運転者坂本に対し胸部打撲症の傷害を負わせたことが認められる。

二、原告の損害 計        二四九、五六〇円

(1)原告車破損修理費および部品代 一三二、四二〇円

(≪証拠省略≫)

(2)右修理期間中の休車損     一一四、五六〇円

逸失利益は原告主張のとおり一一四、五六〇円と認められる(≪証拠省略≫)。しかし原告主張の下車勤務手当支給による損害は証拠上認められない。

(3)訴外坂本の治療費         二、五八〇円

原告主張のとおり認められる。(≪証拠省略≫)

(4)原告車価値低下損 認められない。

≪証拠省略≫によるも、原告主張のような価値低下が生じたことを認めるに十分でない。

三、被告の相殺の抗弁は理由がない。

本件事故発生状況はさきに認定したとおりであるが、さらに≪証拠省略≫によると、本件交差点は幅員八メートルの南北道路と幅員一一メートルの東西道路が直角に交差し左右の見通しの悪い場合で、自動車の速度は四〇キロメートル毎時までに制限されていること、原告車の運転者坂本は右交差点手前(北方)約四〇メートルの地点で対面信号が青を示しているのを確認し、時速約四〇キロメートルに加速して前方を注視しながら交差点に進入しようとしたとき、右側道路から時速約六〇キロメートルで交差点に入ってきた被告車にはじめて気づき急ブレーキをかけたが及ばず、自車前部が被告車左側前ドア付近に衝突したことが認められる。

とすると、原告車の運転者坂本が被告車を発見した直後とった措置に過失はないといわなければならない。

そこで被告車発見前の措置につき過失の有無を検討するに、本件交差点のように左右の見通しの悪い場所においては、たとえ信号機により交通整理が行なわれていても、自動車運転者としては信号に従うのみならず、あらかじめ減速し前方左右を注視しながら通過すべき注意義務があるとする見解があり、この見解に従えば、前記坂本が左右道路に十分な注意を払わず(払っていれば被告車のライトによりその接近をより早く察知できたであろう)時速約四〇キロメートルで交差点に進入しようとした点に同人の過失を認めることができよう。しかし、信号機により交通整理が行なわれている以上、車両運転者や歩行者はその表示に従うべきものであるから、対面の青信号に従い交差点に進入しようとする原告車の坂本としては、左右道路から接近してくる車両等が対面の赤信号に従い交差点手前で一時停止するであろうことを信頼し、制限速度の範囲内で前方を注視しつつ進行すれば足り、あえて右赤信号に違反し左右から交差点内に進入してくる車両等のありうることまで予想し、あらかじめことさら減速のうえ左右道路にも十分な注意を払いながら進行すべき注意義務はないものと解すべきであるから、坂本が時速約四〇キロメートルで本件交差点に進入した点に過失はなく、また被告車の発見が遅れたともいえない。

結局、本件衝突事故は、被告車の運転者橋本の前記赤信号違反という過失により発生したもので、原告車の運転者坂本に運転上の過失なく、また本件全証拠を総合すると、他に右事故の発生原因はないことが認められるから、原告は被告に対し自賠法三条本文および民法七一五条一項の賠償責任を負わないといわなければならない(原告は自賠法三条ただし書に定める免責事由のうち原告車運転者の無過失と被告車運転者の過失のほかは明確に主張していないが、その主張全体から判断すると、本件事故は被告車運転者の過失のみにより発生し他に事故原因はないとの趣旨を含むものと解される)。

第六  結論

被告は原告に対し、二四九、五六〇円およびこれに対する昭和四二年一月一〇日から支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

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